じんたんのブログ

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論文紹介5

Cardiac sympathectomy for refractory ventricular tachycardia in arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy

不整脈源性右室心筋症における、再発性心室頻拍への心臓交感神経切除術に関して

Heart Rhythm 2019;16:1003-1010.

 

背景:

交感神経系は不整脈源性右室心筋症(ARVC)における不整脈発生に重要な役割を担っている。突然死は運動中に起こることが一般的であり、βブロッカーが不整脈の減少と関連が認められている。両側の心臓交感神経除神経術(BCSD)は器質的心疾患および難治性心室頻拍(VT)患者において、植込み型除細動器(ICD)の作動を減少させることが示されている。しかし、ARVCに関するデータは少ない。

 

目的:

本研究の目的はARVCを持つ難治性VT患者におけるBCSDの役割を評価することである。

 

方法:

再発性VTに対してBCSDを受けたARVC患者連続症例を検討した。ICDショック作動回数、持続性VTエピソード、VTストーム、および不整脈治療を評価し、治療介入の前と後で比較を行った。無VT生存率、脂肪、心臓移植に関しても評価した。

 

結果:

8名のARVC患者[平均年齢32 ± 20歳、男性3名(38%)]が難治性VTのため交感神経切除術を受けた。全症例でカテーテルアブレーションは失敗に終わり、50%の症例でデスモソームの遺伝子変異が同定された。神経切除術の合併症としては、神経痛、傍脊椎静脈叢の損傷、および気胸が認められた。平均観察期間1.9 ± 0.9年の間に、5名(63%)はVTの再発を認めなかった。BCSD治療一年前と比較して、BCSDは有意にICDショック回数及び持続性VTの回数を減少させた(Pre-BCSD:平均12.6 ± 18.2, 中央値6.5 [IQR 4.5-10.5] vs Post-BCSD: 0.9 ± 1.4, 中央値0 [IQR 0-1.5], p = 0.011)。大半の患者(88%)はβブロッカー単独でフォローアップ終了まで経過観察可能であったが、1名の患者は心不全のため心臓移植を実施した。死亡症例は認めなかった。

 

結語:

BCSDはARVCに伴う難治性VT患者でカテーテルアブレーション等の慣習的な治療が不成功に終わった症例の有効な治療選択肢である可能性が考えられた。

 

コメント:

ARVCは右室心尖部の脂肪変性に伴い、右室拡大及び右心不全を呈し、VT等の致死的不整脈が起こる疾患で、デスモソームの遺伝子異常が報告されている。

非常に稀な疾患であり、本研究も単施設の少数例の検討に留まっている。実際、交感神経切除術まで実施したケースを経験したことはないが、本研究の結果ではアブレーション治療に反応しない難治性VTでICD作動回数を減少させるなど、一定の効果は認められると考えられる。

本症例ではメトプロロールがほとんどの症例で使用されていたり、術後の疼痛管理にイブプロフェンなどのNSAIDSが使用されるなど、本邦ではあまり行われない治療が行われいることに加え、2例を除いて10-20代の心不全症状も軽い症例を中心に治療している点も結果の解釈には注意が必要であろう。