循環器内科医としては、日頃から余程のことがない限り心房細動で動悸等を訴えてきた患者に対して迅速なカルディオバージョンは行わないように心掛けてきたし、実際特に夜間はMan powerの問題で保存的に経過を見ることがどこの病院でも多いように思います。
今回のN Engl J Medの論文はそのような日頃の経験上の疑問を比較的少数例の無作為化試験で解決したという点で非常にインパクトが大きいように思いますし、実際自分が何気なくなっていた医療行為の妥当性が科学的にも証明され、心のそこから納得できる結果でした。
主要評価項目ではありませんが、個人的には、抗凝固薬は両群で約40%程度した服用していない状況下で、経食道心エコーを実施せずに48時間以内に薬物的・電気的カルディオバージョンを行なっても脳梗塞発症が1例しか認めていない点も興味深く感じました。
ただ、本邦と異なる点とすれば、本試験で好んで用いられたと記載されているフレカイニドは使用頻度が欧米と比較して高くなく、むしろピルジカイニドやシベンゾリンなどの他のI群薬が使用されるケースも多いと思います。除細動効率は文献的にはフレカイニドがやや他剤よりも除細動効率が高いという報告もありますが、劇的に大きく変わるわけではないので、他剤を使用した場合でも試験結果に大きな変化をもたらすかと言われるとそうではないように思います。
あと2点、I群薬は心機能低下例では原則使用が禁忌となっているため、心機能のスクリーニングを救急外来でどう行うべきか等に関しては議論の余地が残されているように思います。同様に心拍数コントロールに用いた非ジヒドロピリジン系CCBやβブロッカーの使用方法の標準化も記載がありませんでした。又、本研究の結果からは1%程度に満たないぐらいですが、Bradycardia Tachycardia Syndrome(徐脈頻脈症候群)を呈する可能性もあるため、経皮的ペーシングができるように除細動機はやはり薬物的カルディオバージョンだとしても横に置いておくべきだと思います。
Early or Delayed Cardioversion in Recent-Onset Atrial Fibrillation (RACE 7 ACWAS)
Editorial:
背景:少し前に発症した心房細動患者に対しては一般的に薬物的又は電気的カルディオバージョンを行い、早期の洞調律化が図られる。しかし、心房細動はしばしば自然停止するため、早期の洞調律化が必ずしも必要なのか否かに関してはよく分かっていない。
方法:
試験デザインは多施設・無作為化・オープンラベル・非劣勢試験。
血行動態が安定し、少し前に発症した(<36時間)、有症候性の心房細動患者を、救急外来で経過観察群(待機的カルディオバージョン群)と早期カルディオバージョン群に無作為に割り付けた。経過観察群では心拍数コントロールのみをまず行い、心房細動が改善認めなければ48時間以内に待機的にカルディオバージョンを行った。一次エンドポイントは4週間経過した時点での洞調律化の有無とした。2群間の一次エンドポイントにおける95%信頼区間の下限値の差がパーセント計算で-10%を超えている場合に非劣勢と判断した。
結果:4週間の時点での洞調律化は待機的カルディオバージョン群で193/212 (91%)、早期カルディオバージョン群で202/215 (94%)であった(2群間の差は-2.9%であり、95%信頼区間は-8.2-2.2、非劣勢検定のp値=0.005)。待機的カルディオバージョン群では48時間以内に158/218例(69%)が自然に洞調律化し、待機的にカルディオバージョンを要した症例は61例(28%)であった。早期カルディオバージョン群ではカルディオバージョン前に36/219(16%)の症例で自然と洞調律化し、カルディオバージョン後に171例(78%)の症例で洞調律化が得られた。4週間の期間遠隔モニタリングを装着可能であった症例の内、心房細動の再発は待機的カルディオバージョン群で49/164 (30%)、早期カルディオバージョン群で50/171 (29%)であった。又、無作為化4週間以内では心臓血管系合併症はそれぞれ10例、8例であった。
結語:少し前に発症した症候性心房細動患者が救急外来を受診した場合、4週間後の時点での洞調律化達成度に関して、経過観察(待機的カルディオバージョン)は早期カルディオバージョンに対して非劣勢であった。