じんたんのブログ

シカゴでの研究留学生活、その関連情報を記載していきます。

下部尿路症状と心血管疾患の関連に関して

最近Circulation journalに論文が受理されたので、簡単に解説をしようと思います。

以前の研究で、Erectile dysfunction (ED)が心房細動の新規発祥に関連することを、米国の前向きコホート研究で報告しました。その繋がりで、下部尿路症状が心房細動やその他の心血管疾患と関連があるのではないかというのが本研究の着想です。文献を調べてみると、欧米では下部尿路症状と心血管の関連が報告されていましたが、本邦では皆無でした。

上記背景から研究を始め、下部尿路症状(Lower urinary tract symptom:LUTS)と心血管疾患の関連に関して、本邦で初めて報告しました。 

www.jstage.jst.go.jp

 

LUTSは男性、女性にみられる症状ですが、特に男性では、年齢を重ねると前立腺肥大の影響で尿が出にくくなったり、頻尿を認めたり、夜間頻尿、中途覚醒などさまざまな症状を来すことが知られています。欧米の研究の結果では、LUTSは男女共に見られ、心血管疾患との関連が報告されています。しかし、本邦でその関連は検討されていませんでした。

 

本研究は、金沢市住民検診のデータを使用し、40歳以上の男性健診受診者で、前立腺肥大症の症状スコアであるInternational prostate symptom score (IPSS)の評価、PSAの測定及び検診を受診した方を対象に、Cross-sectionalに解析を行いました。LUTSはIPSSスコアにより軽症群・中等症群・及び重症群に分けて評価を行い、アウトカムは冠動脈疾患・脳梗塞・心房細動を含んだ複合アウトカムとしました。

その結果、前立腺肥大症の症状スコアが高い(症状がひどい)ほど、心血管疾患の頻度は増加し、そのほかの交絡因子で調整しても、IPSSは心血管疾患と有意に関連を認めました。

複合アウトカムのそれぞれの要素とIPSSの関連を更に調べたところ、冠動脈疾患・脳梗塞に関してはIPSSは用量依存性の関連を認めていましたが、心房細動とは関連を認めませんでした。

 

今回の研究では、因果関係に関して言及することはできませんが、

1、中等症以上の下部尿路症状を認める男性では、心血管疾患を有している可能性が高いため注意が必要である

2、下部尿路症状をただの尿路症状として対処せず、問診等で心血管疾患スクリーニングを行い、ハイリスクと考えられる場合には精査を行なった方が良い可能性がある。

のではないかと考えられます。今後、上記仮説を証明するには更なる研究が必要であることは言うまでもありません。