じんたんのブログ

シカゴでの研究留学生活、その関連情報を記載していきます。

論文紹介14

本日は久しぶりに論文紹介をさせて頂きます。

今回の論文はSEERという米国のガン統計を使用して、脳幹腫瘍のIncidence-based mortality rateのトレンドを調べ、年齢・性別・人種でどのような違いがあるかを検討した論文です。

https://academic.oup.com/noa/article/3/1/vdab137/6371862

先日受理されたばかりで、足掛け一年以上になる思い出深いものです。

 

「論文を執筆するに至った経緯」

ノースウェスタン大学には脳腫瘍を研究されている日本人研究者が多く在籍しておられたこともあり、彼からの研究内容をよく目にする機会に恵まれました。私は循環器疫学を専門としておりますので、疫学データをよく扱うのですが、脳幹腫瘍の疫学論文はあまり世に出ていないことに気づいたため、研究者友達の一人に脳幹腫瘍の疫学論文をサポートするので書かないかと話を持ちかけました。

友人が興味を示してくれたこともあり、昨年の秋頃から一緒に研究方法等を考え始め、友人にデータ集め、解析を行ってもらいつつ、私は統計・疫学に関するアドバイス、論文執筆、校正等を行いました。

 

そして、IF factor 10点以上のNeuro-Oncologyという雑誌に投稿したのですが、残念ながら受理されず、Neuro-Oncology Advancesという姉妹氏へのTransferを勧められました。

Reviewerからは膨大な数のコメント・質問が来ていたため、それに対応するのは非常に大変でしたが、Transferの結果、無事にNeuro-Oncology Advancesから受理を頂けました。

 

「要約」

データベース:SEERという米国のがんレジストリーデータ 2004-2018年

統計手法:Serial Cross-sectional analysis、Trend解析(Joint )

主要評価項目:脳幹腫瘍のAge-adjusted incidence-based mortality rate

結果:

  • 全体としては、死亡率は横ばい
  • 14歳以下の死亡率は15歳以上と比べると3倍以上有意に高い。
  • 14歳以下では女児の死亡率が男児よりも有意に高い。
  • 15歳以上では逆に男性の死亡率が女性よりも高い。
  • 明らかな人種差は認められず(Statistical underpowerの可能性あり)。
  • 5歳毎のサブグループに分けてみると、死亡率は2峰性であり(若年と高齢に山あり)、女性では若年の山が男性より高く、男性では高齢の山が女性よりも高い。

解釈:

  • 死亡率はこの15年で大きく変化しておらず、革新的な治療法が必要不可欠。
  • 特に若年者では女児の腫瘍発生率が男児よりも高いことが、死亡率上昇に関与している可能性が示唆。
  • 若年者と高齢者で脳幹腫瘍のEtiologyまたは主要の特性が異なる可能性が考えられる。
  • 今後の更なる研究が望まれる。

 

このような死亡統計を用いた研究では、変数がかなり制限されてしまうため、ざっくりとした検討しかできな場合が多いです。しかし、現在の問題点を浮き彫りにして、更なる研究の必要性、政策提言などに貢献することは可能だと思います。

興味ある方は是非読んでみてください(https://doi.org/10.1093/noajnl/vdab137

 

今回の論文ではIncidence-based mortality rateといって、特殊な死亡率を検討しています。注意点としてはLead time biasなどの影響を受ける可能性がある点です。

Chu KC, Miller BA, Feuer EJ, Hankey BF. A method for partitioning cancer mortality trends by factors associated with diagnosis: an application to female breast cancer. J Clin Epidemiol. 1994;47(12):1451–1461.

その対になるのが、Death-certificate based mortality rateという概念です。後者の方が一般的にはよく使用されています。

後者を使用した私の執筆した論文としては、下記の論文があるので、参考にしてみてください。https://doi.org/10.1161/JAHA.120.020163